倫理審査とは?臨床研究・観察研究における役割と重要性を解説
臨床研究や観察研究を実施する際、必ず通らなければならないのが「倫理審査」です。学会発表や論文投稿の場面でも、倫理審査委員会の承認番号の記載を求められることが近年増えています。しかし、「倫理審査とは具体的に何を審査するのか」「なぜ必要なのか」について、改めて問われると説明が難しいと感じる医療従事者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、臨床研究・観察研究における倫理審査の役割と重要性について、厚生労働省登録IRBである一般社団法人日本臨床研究安全評価機構(SACRJ)が専門的な視点からわかりやすく解説します。
倫理審査とは
倫理審査とは、人を対象とする医学系研究について、その計画が倫理的・科学的に適切であるかを、独立した第三者機関である「倫理審査委員会(IRB:Institutional Review Board)」が審査する仕組みのことを指します。
日本では「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示)および「臨床研究法」に基づき、研究実施前に倫理審査を受けることが原則として義務づけられています。
倫理審査で確認される主な項目
倫理審査委員会では、研究計画書に基づき、以下のような観点から多角的な検討が行われます。
- 研究の科学的妥当性と社会的意義
- 研究対象者の人権と尊厳が保護されているか
- インフォームド・コンセント(説明と同意)の手続きが適切か
- 個人情報の取り扱いが適切か
- 研究によるリスクと期待される利益のバランス
- 研究者の利益相反(COI)の有無と管理体制
- 研究終了後のデータ管理・公表方法
これらの項目について、医学・医療の専門家、倫理学や法律の専門家、一般の立場からの委員など、多様なメンバーで構成された委員会が合議制で審議を行います。
なぜ倫理審査が必要なのか
倫理審査制度の背景には、過去に国内外で発生した研究倫理上の重大な問題があります。研究対象者となる人々の人権・尊厳・安全を守り、研究の信頼性を担保するため、独立した第三者による事前審査は不可欠とされています。
研究対象者の保護
医学研究は、患者や健常者の協力なしには成立しません。研究対象者が安心して研究に参加できる環境を整えるためには、研究計画が対象者の負担やリスクに対して十分に配慮されていることを、研究実施者自身ではなく第三者が客観的に確認する必要があります。
研究の信頼性確保
倫理審査を経ていない研究は、その結果自体の信頼性が問われることになります。近年、医学系学術誌の多くが投稿規程で倫理審査委員会の承認を条件としているのは、研究の信頼性を担保するためです。倫理審査を受けることは、研究成果を社会に還元する上での前提条件となっています。
研究者自身の保護
倫理審査は、研究対象者だけでなく、研究を実施する医療従事者自身を守る役割も果たします。事前に適切な審査を受けた研究計画に沿って実施することで、予期せぬトラブルが発生した際にも、手続きが適正であったことを示す重要な根拠となります。
臨床研究と観察研究における倫理審査の違い
倫理審査が必要な研究は大きく分けて「臨床研究」と「観察研究」の2種類があります。それぞれの定義と、必要となる倫理審査の種類を整理しておきましょう。
臨床研究(特定臨床研究)
未承認医薬品・医療機器を用いた研究、適応外使用を伴う研究、企業から資金提供を受けて行う研究などは「特定臨床研究」に該当し、臨床研究法の対象となります。これらは認定臨床研究審査委員会の審査を経て、厚生労働省への届出が必要です。
観察研究
通常の診療で得られた情報やデータを用いて、治療効果や経過を後ろ向きに評価する観察研究は、臨床研究法の直接の対象ではありません。ただし、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づき、倫理審査委員会の審査を受ける必要があります。
開業医の先生方が日常診療の中で行う症例報告や後ろ向き研究の多くは、この観察研究に該当します。学会発表や論文投稿を予定している場合は、必ず事前に倫理審査を受けましょう。
倫理審査の承認番号とは
倫理審査委員会の審査を経て承認された研究には、「承認番号」が発行されます。この番号は、当該研究が正式な審査を経て承認されたことを証明する重要な識別子です。
承認番号は以下のような場面で必要となります。
- 学会発表時の抄録・スライド・ポスターへの記載
- 論文投稿時の倫理的配慮に関する記載
- 演題登録フォームへの入力
- 研究成果の報告書作成時
近年、学会・学術誌ともに承認番号の記載を必須としているため、研究開始前に倫理審査を受けて承認番号を取得しておくことが重要です。
倫理審査の申請から承認までの流れ
倫理審査の標準的な流れは以下の通りです。
1. 研究計画書の作成
研究の目的、方法、対象者、データ管理、倫理的配慮などを明記した研究計画書を作成します。これが審査の中心となる書類です。
2. 必要書類の準備
研究計画書に加え、インフォームド・コンセント説明文書、同意書、症例報告書(CRF)、その他関連資料を揃えます。
3. 倫理審査委員会への申請
書類一式を倫理審査委員会に提出し、審査を申請します。
4. 審査の実施
通常審査では、定期開催される委員会で合議審査が行われます。軽微な変更や最小リスク研究については迅速審査の対象となる場合もあります。
5. 承認通知と承認番号の発行
審査結果が通知され、承認された場合は承認番号が発行されます。条件付き承認の場合は、指摘事項への対応後に再審査を行います。
倫理審査委員会の選び方
所属施設に倫理審査委員会がない場合、外部の倫理審査委員会を利用することになります。委員会を選ぶ際は、以下の点を確認しましょう。
- 厚生労働省の倫理審査委員会報告システムに登録されているか
- 指針に定められた構成要件を満たしているか(医学の専門家、倫理・法律の専門家、一般の立場の委員、男女両性で構成、5名以上など)
- 審査の頻度・迅速性
- 継続的な審査・変更申請への対応体制
- 審査料金の明確性
まとめ
倫理審査は、臨床研究・観察研究において研究対象者の人権と安全を守り、研究の信頼性を確保するために不可欠な仕組みです。学会発表や論文投稿を予定する場合は、研究開始前に倫理審査委員会の承認を取得することが原則となります。
一般社団法人日本臨床研究安全評価機構(SACRJ)は、厚生労働省登録IRB(登録番号:18000005)として、観察研究を中心とした倫理審査を実施しております。開業医の先生方や小規模医療機関の研究者の方々からも多数のお申込みをいただいております。倫理審査の申請や承認番号の取得についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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